「橋のない川」は遠くに。   

Excite 1千万着服で理事長逮捕 財団から数億横領か

大阪市だけの問題じゃなく、近畿一円の自治体全てにこの問題は大きくのしかかっている。
戦後行われてきた同和政策が今になって大きな矛盾を抱えて軋みだしている。
「橋のない川」の時代の精神はどこへ行ってしまったのだろう。


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「おふで。」 
 少年によばれて、少女ははっと気がついた。ふではもう少女ではなかった。呼んだ少年は、夫の進吉だった。
しばらく、いや、もう何年ごし遇わずにしまった夫の進吉。その進吉が、今、小溝の向う側に立っている……。ふでは小溝をとびこえるべく身構えた。とたんに、小溝は滔々たる大河となって彼女をさえぎった。
進吉は対岸を上流に向いて駈け出す。
ふでも上流に向いて走りつづける。
「ああどこかに橋があるはずや。」


これは、『橋のない川』の冒頭の一節で、主人公孝二の母親ふでが見た夢のシーンであが、物語の一貫したテーマである差別、つまり差別する側と差別される側に橋が架かってないことへの苛立ちや腹立たしさを暗示したものである。

 住井すゑは小説の題名について次のように語っている「アメリカとシベリアを隔てる海峡・ベーリング海峡が、もし、陸続きだったらどうなっていたかを最初に考えたからだ」。つまりベーリング海峡が陸続きだったら、アメリカ大陸もシベリア大陸もなく地球は一つ、世界は一つであり敵対関係は生まれなかった。海峡があるから人は容易に渡れなく、人間関係のいざこざが起きるのである。それは普通に架かる橋でも同じことで、差別と被差別の人間関係の架け橋と置き換えることもできる。





 大阪府警捜査2課などは8日、大阪市東淀川区の財団法人「飛鳥会」の口座から1000万円を自分の口座に移し替え横領したとして、業務上横領の疑いで同会理事長小西邦彦容疑者(72)を逮捕、同会を家宅捜索した。
 飛鳥会の口座などから2003、04年度の2年間で約1億円が小西容疑者に流れており、捜査2課などは横領の総額が数億円に上る可能性があるとみて追及。業務上横領ほう助の疑いで、三菱東京UFJ銀行の支店課長(42)を逮捕した。
 調べでは、小西容疑者は03年12月ごろ、大阪市東淀川区の都銀支店で、飛鳥会名義の口座から自分名義の口座に計1000万円を振替入金させ、横領した疑い。




d0040314_23241933.jpg 住井すゑがライフワークとして、『橋のない川』を書き始めたのは、夫の犬田卯を失い、その遺品の万年筆を握った時からである。その時のことを次のように述べている。「夫の魂は私に移った。これからは二人分・・・」と抽象的に。つまり、『橋のない川』は犬田卯と住井すゑ2人の共同作業によって書き始めたのだと。彼女は夫の死という悲しみを飛躍のエネルギーに変えていったのである。

 遡ると、彼女が6歳の頃、奈良県の故郷で行われた、天覧による陸軍大演習の時、「天皇さんかて糞をするんだ」と知り、人間はみな同じで平等と気がついた。さらに9歳の時、幸徳秋水らの大逆事件のことを知らされて深い悲しみを負う。「わたしが小学校3年のときです。あの事件は1910年、明治43年でしたね。 幸徳秋水、名は伝次郎という極悪人の一味が天皇に対して謀叛を起こしたと、学校の朝礼で校長が話したわけですが、なぜ極悪人かというと、幸徳秋水は国の富を国民に平等に分配しようといったから・・・というくだりで、わたしはびっくりしてね。そんなすばらしい人がこの世にいたのかと。この世の富をみんなに平等に分配する、それをわたしは子ども心に願っていたのです。それを実行しようとした幸徳は神様みたいな男だととっさに思ったですね。」と、『わが生涯−生きて愛して闘って』で二女れい子に語っている。この大逆事件は反逆に加わった24名のうち12名が処刑され、のこり12名は無期懲役となるのだが、その理不尽さ不条理がやがて住井の反差別の結晶となり、彼女の人間的な感性と、夫である犬田卯の思想・哲学が受け継がれ、それが『橋のない川』の文学の原点になったと言えよう。
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by e_jovanni | 2006-05-08 23:25 | 人間として

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